職場の忘年会に向け、先輩に誘われて、出し物をすることになりました。出し物は軽音バンドです。僕はギターやピアノの経験がなく、バンドとしては異色のクラリネットで参加です。
職場の人間関係もあり、誘われたら断ることもできないというのが正直なところですが、やると言ったらやらなければなりません。
なんと8年間一切触れてこなかったクラリネットを取り出して、練習に参加することに。
管楽器は、楽器自体の機密性が音にとても影響を及ぼします。8年間も放置された僕のクラリネットの状態は思ったよりも悪くありませんでした。しかし、低音域の鳴りにくさ、息の通りの悪さなどなど、リペアが必要そうです。
リペアをお願いすると支払う金額は高いです。オーバーホールという処置は6万円くらいします。積極的にやりたいわけではない出し物のために、高いお金を出すのは嫌だなぁと思いつつも、楽器のためにメンテナンスしてあげるのも必要かとグダグダ考えました。最終的に、Googleマップで渋々楽器屋さんを探して、仕事帰りに持ち込むことにしました。
その楽器屋さんはリペアだけを行っているとのことでした。暗い雑居ビルの一階の奥に扉を開けると、70代後半の男性が1人声をかけてくれました。リペアマンです。なんとも頼もしい風格があり、店の中の山積みにされた修理状の楽器が入ったケースや、リガチャーを見ると、意外にもワクワクしてきました。
8年ぶりに吹くことになりリペアをして欲しい旨を伝え、色々と説明してもらった上で、今回はオーバーホールをして頂くだけの資金がないため、予算2万円でお願いすること。それでも快く引き受けて下さいました。
さてさて、本題はここからです。僕はお店に18時に入店したのですが、楽器の受け渡しが終わった後が本番かのように、リペアマンのおじさんと雑談が始まりました。
楽器の話もたくさんしたのですが、何より感動したのは、おじさんの新しいことに挑戦する寛容な考え方です。
実は、僕が今働いている職場はとても古い体質で、上司を中心に新しい取り組みを避ける傾向にあり、調べた上で話しても許可が出ることがほとんどありません。それも専門職なのにです。風土的にそういうもんという話を、職場の同僚や親戚から聞いていました。そのため、古いことにしがみ付く地域なのかと半ば諦めていたタイミングで、挑戦するおじさんに出会い僕はかなり救われた気がしました。
おじさん曰く
「楽器の道具って、ヤマハの名前つければ10倍高く売れるの。でも、100均で売っているタオルとヤマハのタオルが同じ素材なのに気付いてさ、今では100均のしか使わないよ」
という話から、始まり、色々と新しことをしていかないと自分だけの能力は身につかないからね、と過去のおじさんの取り組みを教えてもらいました。
リガチャーは、なんと自分で開発して特許まで取ったそうです。他の人が作ったパーツを売ってるだけじゃ儲からないし、技量が上がらないとのことで、リガチャーに使用する金の厚さや、リードを締めるネジのバランサーの開発など、先進的な取り組みをされていることに驚かされます(なお、今は金の値段が上がり、開発当初は3万円台だったリガチャーは、今や7.4万円です)
おじさんに私の職場が全く失敗することを否ており、停滞感を感じると愚痴ると、「失敗してでも挑戦しないと、なーんにも生まれない。同じことの繰り返しだけだと、他の人でもできるからね。でも上司って失敗嫌がる人がなるよね」と、見破られた気分に。
そして、面白いと思ったのは、全部できるvs専門性を持つ、のおじさんの考えです。
おじさん自身は高いレベルで吹奏楽で使用するほとんどの楽器を修理することができるそうです。しかし、専門性は無いとのこと。一方で弟子の1人は20年前からサックスのリペアで敵わなくなり、今では会社としては全ての管楽器を引き受けるものの、彼はサックスしか修理しなくなったそうです。
「全部できると会社としては便利よ。でも、本人の誰にも負けない技量は身につかない。逆に専門性を持たせると、それ以外はやりたがらない。どっちもどっちだからね。」
人間は二つのことを完璧に追うことはできない。人によって得意な方向にプッシュしてあげることが技術者の能力やキャリアに大切なことだと言われたような気がします。
そして、会話の最後で、「技術は結局口で伝えることができない。勘が必要よ。勘でやるしか無いし、それが技術者のプロの部分なんだよ」と。この時には僕の職業も明かしており、悩み相談状態になっていたので、沁みました。
話に夢中になりすぎていたら、新しいお客さんが閉店時間ギリギリアウトでやってきて、僕らの雑談も終了。お店を出たのは19時10分頃でした。
渋々向かった楽器屋さんでしたが、帰路につく頃には、おじさんと出会って良かったと思うことができました。
最近は家と職場の往復で終わっていましたが、少しの面倒くささを我慢して一歩別のことをやってみると幅が広がるんだなと清々しい気分になれました。







